その扉の向こうで、今日も物語が始まる

介護の現場で一日が動き出す「瞬間」――それは多くの場合、誰かの居室の扉を開けるところから始まる。
今日は、あの短い一歩がいかに大切かを実感した出来事を書きます。

< ● 朝の気配をつかむ >

● 朝の気配をつかむ

扉の前で手を止め、息を整える。
一歩開けた瞬間に感じる“空気”で、その日のトーンがなんとなく分かることがある。
今日は「ちょっとにぎやかになるな」という予感がした。

最初の居室では、普段より視線が落ち気味の方がいた。言葉は少しで、でも視線や肩の張り具合で「今日は不安なんだ」と伝わってきた。
そんな時こそゆっくりと近づき、声のトーンを落として「おはよう、ゆっくりでいいよ」と伝える。

<■ 扉ごとに違う物語 >

次の部屋を開けると、まるで別の世界。満面の笑みで迎えてくれる方や、まだ眠気を引きずる方もいる。
この“落差”こそが介護の現場のリアルで、だからこそ面白く、時に疲れるところでもある。

私は最近、言霊や目に見えない“波”を意識するようになった。部屋に入る前の小さな呼吸で自分を整えると、相手の表情がふっと柔らかくなる瞬間がある。
特別なことではなく、ほんの一つの習慣が場の空気を変えるのだと感じる。

扉を開ける前の一呼吸は、あなたの心を整えるための準備。
その静けさが、誰かの朝をやわらかく変えていく。